雪の兼六園
パーフェクト。
園内に一歩足を踏み入れて、呟いた。
これこそ求めていた風景、求めていた世界。
さらさらさらさら雪が降るにつれ、自分が昂揚していくのが
わかる。なぜ、いつから、これほど雪景色に心震えるように
なったのか、定かではない。ただ、目の前の風景が白く
浄化されていくたび、頭や心の中のどろどろが抜け落ちて
子どもの頃に戻れるような気がするんだ。
気づくと、園内を早足で駆けずり回っている自分がいた。
ここの景色をすべて見たい。雪に閉ざされた世界の隅々を
すべて見回したい。そしたらきっと、世界は自分のものになる。
雪吊りに守られた木々も、蓬莱島を抱く池も、遠くに見える
あの山も。雪が溶けて消える瞬間まで、この世界は俺のものだ。
白い空と白い大地と白い息に包まれて、どんどんどんどん
駆け回る。聞こえてくるのは、砂利を踏む音、水の流れる音。
そして、自分の鼓動だけ。やがて雪が止み、流れる風も、
池の水面も微動だにしなくなった時、世界に合わせて
自分も立ち止まった。耳鳴りしそうなほど静かで澄んだ
空気の中、このままずっと、ここでこうして佇んでいたい。
心の底から、そう願った。でも、俺は再び駆け出した。
この静かで完璧な世界に免じて、素直に白状しよう。
トイレが俺を呼んでいたんだ…。