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新刊漫画覚書1504

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先月の予感通り、今月は新刊が立て続けに刊行。
もう少し分散してくれると助かるんだけど
発行サイクルが似ていると仕方ないのかな。

■清家雪子『月に吠えらんねえ』3巻 講談社
近代□(詩歌句)街が舞台の本作が、とうとう近代を
終わらせた、あの戦争へと踏み出す。詩想を取り戻すため
□街を離れ「遠い旅」に出た犀(室生犀星)がたどり着き
目にしたのは、敗色濃厚な戦地と、積み重なる死そのもの
だった。彼が戦地で追い詰められるのと呼応するように
朔も紀元二千六百年を祝う本土で追い込まれていく。

一冊ほぼ丸ごと使って描かれた戦争は、前巻のインパール
から始まり、硫黄島、そしてサイパン最北端の岬で一旦
幕を閉じる。はるみくん(折口春洋)の消えた硫黄島も
凄惨だったが、島で出会った少女ハルコとのサイパン縦断
逃避行の終焉は、さらに重く、打ちひしがれるものとなる。
文学ファンタジーだと思っていたけれど、ここにあるのは
安易な救いや癒しを良しとしない、苛烈な創作者の矜持
だった。それは戦時中の日本を描くシーンでより明確になる。
文壇こぞってお上の手先になる状況を厳然と批判する
石川くん(石川啄木)がその象徴だが、彼の主張はまさしく
今の日本にも深く突き刺さるもので、漫画といえど、よく
この表現をこのタイミングで落とし込んできたなと痺れた。
一方、主人公である朔は石川くんとは異なる形で現状に
抗おうとする。一見感傷的に見えて、その実、身を削るような
方法論は、この作品の真のテーマを浮かび上がらせることに。
その実態は次巻以降明らかになるとして、本巻最後の一編は
60~70年代の学生運動から現代日本をめぐる石川くんの
旅を通じて、偉人や文豪をネタやキャラとして消費する
罪深さを白日の下に晒すという、かなり捻じれた内容。
でも、この「実在の人物を都合よく書き換える」という
テーマも、実は今後の展開に深く関わってくる。重量級の
3巻に続き、より痛く、より容赦ない4巻を震えて待て。
■福満しげゆき『中2の男子と第6感』1巻 講談社
気づけば次々と連載が終了し、心配してた福満先生の
新刊が出たよ! 最近のエッセイ作品とは違って、初期の
不安感を煽る線の細いタッチに戻した絵柄で描かれるのは
タイトル通り、中2男子の妄想漫画。不登校の男子がなぜか
自宅で女子と一緒にイジメ対策を練るというのが基本設定。
最初の数編はただ、ボクシングやギター、漫画なんかを
謎の薀蓄とともに練習してるだけのゆるい内容だったのが
やがてヘビーなイジメの実態が挿し込まれ、傍にいる女子の
存在理由も明らかに。ぶっちゃけると、この女子は主人公が
現実の辛さから逃れるために生み出した妄想というか、
イマジナリーフレンドというか、タルパみたいなもの…だと
思っていたら、幽霊説やら生き霊説も出てきてさらに混沌(笑)。
彼女の存在を追究しつつも、話が脱線しまくる中盤以降が
訳の分からない面白さになっております。やっぱり福満作品
好きだなあ。ただ、恒例の過剰長文あとがきが無かったのが
唯一残念。できれば早めの続刊と、あとがき復活を期待。

■木村紺『マイボーイ』2巻 講談社
ストレートなボクシング漫画第2巻。
ボクシング技術や練習方法を細かく丁寧に描く一方で
ジムに所属するボクサー一人ひとりのキャラクターも
きっちり掘り起こしていく。1巻では全体的に普通っぽい
印象だったけど、そこはやはり木村作品なので、掘れば
掘るほど個性が滲み出してくる。ポチこと中村君は
ともかく、ただの男前キャラと思ってたコジローの試合が
ネタ感満載の『巨娘』テイストだったのは脱力した(笑)。
でも彼の人物像や背景が浮かぶにつれ、いいやつに
見えてくるという。こういう重層的な描き方は、さすが。
地道に長く続いてほしい作品です。

■諫山創『進撃の巨人』16巻 講談社
ここしばらく鬱屈とした流れが続いていたけれど
ここにきて一気に世界の謎に踏み込む超展開。とにかく
ずっと行方不明だったエレンの父親の言動がやっと
明らかに。あくまでレイス家当主の説明によるものなので
これがすべて真実かどうか分からないが、少なくとも
エレンが巨人化できる理由だけでなく、特別な力を
持った理由も判明。それはまさしく世界の謎につながる
力だった。そしてストーリーだけでなく、漫画としての
見映え、引っ張り方もばっちり決めて次巻へ。
この勢いのまま、最後まで突っ走ってほしい。

■松田奈緒子『重版出来!』5巻 小学館
意外と刊行ペース早く、気づけば5巻の漫画編集漫画。
今回はがっつり漫画編集というより、雑誌のグラビアや
書籍出版といった分野にも場面を広げる。特に画集出版を
めぐってブックデザインの大家や製版の職人、紙の手配を
行う資材課が各自プロの仕事を全うし、一つの作品を
生み出していくシーンは個人的に熱くなった。あと
これまでずっと悩み続けてた新人漫画家・東江さんが
ちゃんと結論出して前向きになれたのは、ほっとしたよ。

■今井哲也『アリスと蔵六』5巻 徳間書店
主人公と、能力に目覚めた少女が対峙する今巻。
能力者同士の衝突といえば、いわゆるバトル物に
なるのかと思ったら、なぜか双方の力が無効化して
異世界に閉じ込められるという。だだっ広い世界の
片隅で、二人は身の上を打ち明け、少しずつ距離を
縮めていく。とても優しくて密やかな成長物語。
この作品は、今後もこういう方向に進んでいくのかな。

■『蟲師 外譚集』 講談社
蟲師』続章アニメ化記念に描かれた、5人の作家による
トリビュート作品集。吉田基已以外は、『もっけ』や
ネクログ』の熊倉隆敏、『コトノバドライブ』や
カブのイサキ』の芦奈野ひとし、『ハックス!』や
ぼくらのよあけ』に、すぐ上でも触れた今井哲也、
そして『珈琲時間』や『ゴーグル』の豊田徹也と、アフタ系
作家が中心。この中では熊倉作品だけが蟲師の世界観を
忠実に再現しているのに対し、あとの4作は各自の得意と
する領域に引き込んで創作。芦奈野作品は、やっぱり
過去か現在か未来か判然としない少し不思議な雰囲気だし
今井作品はファンタジーとSFの中間をさまよう現代的な
内容に仕上がってて面白い。個人的に初見の吉田作品も
現在の温泉地が舞台なのに“蟲”を違和感なく馴染ませてて
しみじみ良い話になってた。で、問題は豊田作品。これまで
自作に何度も登場してきた探偵・山崎を再び狂言回しに据え
いつも通りしれっと物語を進行するという反則技(笑)。
でも、都会の片隅で飄々と生きる蟲師の爺さんと出会って
以降は、見事に蟲師の世界と融合させていく。ちゃんと
原作の“蟲”を二種類も取り入れた上、ベタなオチまで
付ける完璧さ。意外な器用さを見せられて嬉しかったけど
できればオリジナル作品も早く描いてください。

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